水野氏が過去に朝日新聞紙上で書いた論文「内閣への注文 ゼロ成長時代のモデル築け」を読むと・・・

「新ゼロ成長のもとでも豊かに暮らせるというモデルを、ひるまずに築いてほしい。選挙を通じて民主党が示してきた政策の中にも、新たなモデルづくりの芽はある。

 パイを大きくすればなんとかなった時代は石油危機で終わったのに、自民党はゼロ成長時代への転換を図ることなく成長にこだわり、インフレとバブルでつじつまを合わせてきた。それは結果として、せっかく築いた一億総中流社会を崩し、入れ替え戦のない1部と2部のリーグに社会は分断されてしまった。

 子ども手当とか高校までの教育費の事実上無料化といった民主党の政策は一見バラマキのようだが、本来は分断された社会を元に戻す努力の表れだ。ところが自民党から成長戦略がないと批判されると、一連の政策は内需振興に結びつくなどとつくろってしまう。相変わらず成長戦略などと言っている自民党も自民党だが、ひるんでしまう民主党もどうか。

 国民の関心は景気対策にあると言われるが、かつてと違い生産の回復が所得や雇用、個人消費の回復に結びつかない。原油など資源価格の高騰によるコスト増を人件費で吸収している現状では、なまじ生産が増えれば働く時間が増えるだけ。国民はそういう景気回復を求めているのではない。

 人口の減少で内需の伸びは期待できない。外需もモノの輸出に頼っているかぎり資源高騰で引き合わない。そういう経済構造の転換を知ってか知らずか民主党が打ち出した再分配の政策は、時代の流れに沿っている。

 新しいモデルでは、アジア重視の姿勢と、「成長がすべてを解決する」という20世紀モデルからの脱却の二つが重要だ。

 グローバル化の中で、先進国が400年かけて手にした豊かさを、新興国の30億人は1、2世代で手に入れようとしている。最終ユーザーはいまやアジアだ。鳩山由紀夫首相、岡田克也外相のアジア重視外交は、リーマンショック後の世界はユーラシアの時代という潮流に平仄(ひょうそく)があっている。

 ただ、輸出の中心はモノではなく、サービスや知的所有権に関する分野にシフトするべきだろう。「ジャパンクール(格好いい日本)」をアジアの内需にどう結びつけるか。アジアの人が抱く日本人の生活スタイルへのあこがれを本物にする脱近代モデルを示さねばならない。

 脱石油も、同じ視点から重要だ。鳩山首相が打ち出した温室効果ガスの大幅削減は経済界には評判が悪い。だが、途上国の負担の上に富を築いてきた先進国が、今度は負担を引き受けなければならない以上、厳しい目標を示すことで国際的な支持を得られるはずだ。

 内閣基本方針には、経済合理性重視の経済から人間のための経済への転換を目指し、国が予算を増やせばすべての問題が解決できるものではないとある。成長がすべてを解決する時代が終わったというメッセージであり、これまでの自民党政権との違いがはっきりと表れている。

 70年代以降の遠回りで失った分を取り戻すには10年でも足りない。新内閣は少しずつ独自性を発揮していけばいいが、成長戦略がないと批判されても、むしろそれを持たないほうが21世紀の潮流にマッチしていると考え、成長志向の名残を一掃してほしい。」


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